第1回 歌人もすなる一首評というのをひとまずしてみんとてするなり(3)
さて、3首目に来まして、まさかの1首をはさみます。
- (の)さて、どうしましょうか。これ行ってみましょうか
朝ぼらけ有明の月とみるまでに吉野の里にふれる白雪
- (う)古典きた!笑 なぜまたこの歌を
- (う)一緒だー!!!
- (の)そのかるたの中で、一番好きというか、覚えていて行き帰りの通学路で口ずさんでたのがこの歌です
- (う)なるほど
- (の)いくつか他にもあるんだけど、やっぱこれが一番かなあ
- 多分小学生が百人一首にふれたとき、一番印象に残るのは音なんじゃないかと思うのね。だって「どんな風景が見えますか? 」って聞かれても、多分昔の言葉だから、わかんない笑
- (う)特に3年生じゃねえ、厳しいよねえ
- (の)一応理解できる言葉をあげるとしたら、朝・月・里・雪でしょ。なんとなくはわかってもここぐらいしかハッキリとした理解が難しいんやないかと思うんよ。
- じゃあ何が楽しいのってなったときに、音とかリズムなんじゃないかって思うわけです
- (う)いわゆる韻律性*2みたいなものってことよね。
- ちえこさんの、音的なお気に入りなのはどこらへんでしょうか?
- (の)わたしは基本的にあの音が好きなので、まず、「あさぼらけ(a/sa/bo/ra/ke)ありあけの(a/ri/a/keno)」のつながりに惹かれ、
- 最後の「よしののさとに(yo/shi/no/no/sa/to/ni)→ふれるしらゆき(fu/re/ru/shi/ra/yu/ki)」のサ行が特にグッときますね。
- でもこのグッとくる感じなんだけど、ってなんなのかな? 口にしたときに気持ち良いから?
- (う)うん、快いかんじがあるよね。
- この歌の「しらゆき(shi/ra/yu/ki)」っていう語にある息が抜けるような子音のS音とごく軽い母音のI音が、ささやきごと*3というか、ささやかなもののイメージを膨らませてくれるんだけど、そこから淡くしずかに降る雪の光景が浮かぶなあ。
- (の)ただの雪なんかじゃなくて、白雪っていうところはかなり大事だと思う
- (う)「朝ぼらけ有明の月」、つまり明け方の空に浮かぶ月を想像させておいて、3句目の「と見るまでに」と来るから、実はそれが比喩だとわかる。
- それで最後まで読んでやっと、月光に照らされていると間違えるほどに明るく雪化粧した戸外のことだったっていうのが明らかにされる
- (の)これ、すごく意外な展開だよね
- (う)読者も雪の明るさにはっとさせられるのは、ただ「雪」というのではなくて、白という色を指示した効果が大きいのかも
- (の)今回、この歌を表記するときに、一応ネットで検索をかけたんだけど、百人一首って表記バラバラで引用されてるのね。漢字で表記できる言葉はすべて漢字にしてたり、一部だけひらがなで開いてみたり、全部ひらがなで書いてあったりするんよね。
- それで最初百人一首に触れたときのことを思い返したんけど、全部平仮名だった気もするし、小学生にわかる漢字以外はひらがなだったような気もする。
- 見た目って歌の印象を大きく左右するから、表記ってけっこう重要だと思うのだけど、この引用の表記は私にとってちょうどいい開き具合だなあ
- (う)漢字のあて方も本によって違うことがあるよね。たしかに、全然印象が違って見えるし
- (の)今だったらここでの場面を、よりはっきり思い浮かべることができると思うのね。小学生でもある程度、歌に詠まれている雪のキラッと感は伝わるっていうのはあると思うんだけど
- まーでも何より音がいいんですよ!
- (の)百人一首って名前は知られているけれど、結局それを説明してくださいと言われた時に何なのか、百人一首で代表的なものをあげてくださいと言われると多分すぐには説明できない。
- それでも親しみがあるっていうのは、やっぱり音が支えてるところじゃないかな
- 他の歌で言えば、「あしびきの」
- (う)「やまどりのおのしだりおの」、これは百人一首の口ずさみたい歌代表では!
- (の)もちろん意味内容や情景として綺麗な歌もいっぱいあるんだけど、長く愛されてるのは音とかリズムのせいだと思うんよねー
- (う)覚えられるよね、31音をしっかり暗唱できる
- (の)同じ31音でも暗唱できるものとそうでないものがあるんよね。
- 短歌には元々「5・7・5・7・7」というリズムがあるから、そのなかでも音の心地よさがある歌は特に記憶に残りやすくなると思うのね。
- (の)ここまで評しておいてなんですが、そもそも百人一首評するのは難しいよね。それこそググれば解説し尽くされちゃってるから、これ以上解説のしようがない。
- 解説できないからあんまり言及されないけど、でも歌が何に支えられているか原点に立ち戻ったときに、やはり音が大事なんじゃないかなあってことはすごく感じるところで、音の好きな百人一首とかそういうスタンスで楽しんだら面白いんじゃないのって思うわけです
- (う)そうねー、さっき表記の話が出たけど、古典和歌って文献研究でも決着ついてないところがあるし、「原典を重視するなら万葉仮名だ」とか言葉の壁があって楽しめる人は極端に減ってしまうよね
- あと、日本語の音だって変化しているから、いまわたしたちが感じている韻律性とは違うのかもしれない
- (の)前に古語の発音を再現したものを聞いたことあるんだけど、確かに昔の日本語ってフォッフォしてた笑
- (う)私は
久方のひかりのどけき春の日に静心なく花の散るらむ*4
- H音推しです
- (の)私は他だったらなんだろう、「かささぎの渡せる橋におく霜の」……S音や!笑
- (う)S音というと「だから何だよ」の歌*5が思い起こされますね笑
- (の)でもね、何の音が好きだとか掘り下げるとかなりマニアックなテーマな感じあるよね。
- (う)そんな女子トークに興味ある人いるのかちょっと心配よ。もはやフェチズムだ
- (の)ただ、「歌」である以上は音のことは重視したくて
- (う)うんうん。短歌や和歌は韻文だから、その意より口にする気持ち良さを優先したいな。赤ちゃんの喃語みたいに。
- 口ずさみたくなるには、韻の運びに加えて、語の配置で定型をいかに活かしているかってのもポイントよね
- (の)いっぺん口ずさみたい歌をずらっと集めてみるのも面白いかもしれない(不敵な笑み
- (う)おもしろそう、やってみましょうよー
- (の)ふふふ!ではここでひとまず
今回の取り上げた短歌の出典:
坂上是則、小倉百人一首(藤原定家撰)・第31番
百人一首 - Wikipedia
坂上是則 - Wikipedia